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執筆者の写真Amagirasu

[#8] 白狐のこっくりさん

更新日:11月14日


白狐の怨霊

図書室に入った3人は、静まり返った室内に足を踏み入れた。薄暗い照明の下で、長い年月を経た本棚が無数に並び、古い本の匂いが漂ってくる。3人はそれぞれの視線を交わし、何かが隠れているはずだと信じて探索を始めた。


「この雰囲気…やっぱり何かありそうね。」

奏がつぶやきながら、近くの棚に手を伸ばす。しかし、どこを探しても狐の身体は見つからない。


「こっちの棚も調べてみよう。」


翔が声をかけ、別の本棚へと移動する。優斗もその後について、冷たい空気が漂う図書室を一緒にくまなく探し回った。彼らは机の下、椅子の隙間、さらには壁際の暗がりまで、徹底的に探し続ける。

しかし、どれだけ時間をかけても狐の身体は見当たらない。奏は不安を感じ始め、心の中で何かが引っかかっていた。


「こんなに探しても、やっぱり見つからないですね…」


優斗が呟くと、奏は頷きながら言った。


「きっと何か手がかりがあるはず。諦めないで探しましょう。」


3人は棚を行き来し、目を皿のようにして見回すが、目的のものはどこにもない。焦燥感が募り、静寂の中に緊張感が漂う。

翔が小声で言った。


「ここに何か秘密が隠されているのかもしれない。何かの都市伝説と関係があるのか…?」


その時、ふと翔が棚の隅にある古い本に目を留める。


「この本、なんだか変じゃないか?」


彼がその本を手に取ると、急に目の前の棚から一冊の本が落ちてきた。音に驚いて3人は顔を見合わせ、直感的に何かの前触れを感じた。落ちた本には「狐と日本の伝承」との題名が記されている。古びた紙の匂いが漂い、そこには様々な狐に関する伝説や物語が書かれている。


「見て、ここには狐が人間の姿に変身する話が載ってるわ。」


奏が指を指すと、翔と優斗も覗き込む。


「狐は人間の思念を吸い取ることができるって…この話、もしかしたら何か関係があるのかもしれない。」


「それに、この辺りに伝わる伝説として、『狐の嫁入り』っていうのもあるね。狐が人間の男性と結婚する話なんだけど…その男性は絶対に狐の正体を知らないまま、結婚生活を続けているんだ。」


翔が続ける。


「ただ、その結婚には必ず悲劇がつきものだ。」


優斗が言う。


「結局、狐は人間の世界に留まれなくなり、彼女が戻る日が来てしまうらしいです…」


「そう考えると、狐って人間の心に影響を与える存在なのかもしれないわね。」


奏が何かを思いついたように顔を上げる。

3人は黙ってページをめくり続け、さらなる情報を探る。すると、突然、図書室の中央にある棚の本がドサッと落ちる音が響いた。3人は驚いて振り向く。

落ちた本に注目し、その表紙をじっと見つめる。表紙には「狐」と書かれており、奇妙な魅力を放っていたが、その本はどういうわけか開けることができなかった。


「おかしいです…どうして本が開かないんだ?」


優斗が本を無理に引っ張ろうとするが、抵抗感を感じて手を離す。


「まるで、何かが封じ込められているかのようです。」


「この本を開くには、何か特別な条件が必要なのかもしれないわ。」


奏が考え込む。翔は図書室の暗い隅で、呪われた本の恐ろしい噂を思い出した。


「この図書室には、呪われた本があるって言われてるんだ。誰かがその本を手にすると、4日以内に必ず不幸が訪れるって…」


「不幸が訪れるって、どんな不幸なんですか?」


優斗が眉をひそめて尋ねる。

翔は目を鋭くし、話を続けた。


「軽い呪いなら大切な試験に落ちたり、軽い風邪を引いたりみたいだ。果ては事故に遭ったりすることもある。実際、他校で何人かの生徒がこの本を借りて、次々と不幸に見舞われたという噂が広まっているんだ。」


「本当にそんなことが…」


奏は不安を感じつつ、言葉を続ける。


「その不幸の原因は何なのかしら? ただの迷信なのか、それとも本当に何か悪い力が働いているのか…」


優斗が手を挙げた。


「でも、どうしてその本が呪われているって分かるんですか? ただの噂かもしれませんし…」


翔はうなずきながら、


「確かに、全てが迷信かもしれない。でも、もしこの本の中に何か真実が隠されているのなら、我々が調査しなければならない。これがその本の真相を知る鍵かもしれない。」


「この本を開くためには、呪われた本の秘密を解かなければならないってことね…」


奏は決意を新たにし、図書室の薄暗い隅で、禁書の棚の存在を思い出した。


「そういえば、この図書室には禁書の棚があるわ。そこは生徒が立ち入ってはいけない場所で、呪われた本もその中にあるかもしれないわ。禁書の棚には近づかない方がいいかもしれないけれど、もしその本に何か手がかりが隠されているなら、確かめないわけにはいかない。」


翔は考え込みながら、


「危険かもしれないが、本を開けるにはその謎を見つけてみないとだな。」


言うと、3人は互いに顔を見合わせ、覚悟を決めて禁書の棚へ向かうことにした。彼らの胸には緊張と期待が交錯していた。

暗い図書室の奥へ進むにつれて、空気がどんどん冷たくなっていく。禁書の棚の前に立つと、その不気味な雰囲気に圧倒されながらも、彼らは一歩を踏み出した。

禁書の棚には、案の定、禍々しい雰囲気を纏った呪われた本が静かに佇んでいた。その表紙は黒ずみ、異様な模様が施されており、まるで見る者を拒むかのようだった。

翔は深呼吸をし、意を決してその本を手に取った。


「これが噂の呪われた本か…」


と呟く。だが、何も起こらなかった。ほっとした様子で、奏と優斗も彼の側に寄り集まった。


「大丈夫そうね。」


奏が言った。翔はその言葉に勇気をもらいながら、本の拍子や裏表紙をじっくりと見回した。


「見ろ、裏表紙には何も書かれていない。でも、触っても大丈夫そうだ。」


翔はそう言いながら、本をぱらぱらとめくり始めた。

ページをめくるたびに、彼の表情は次第に真剣になっていく。


「これ、呪いについて詳しく書かれている…」


翔は驚きの声を漏らす。そこには、呪われた本を持つ者に訪れる不幸の数々が詳細に綴られていた。例えば、「この本を持ち続ける者は、4日以内に取り返しのつかない事故や不幸に見舞われる」という警告が、まるで脅迫のように浮かび上がっていた。翔がそのページをめくると、目の前に現れたのは、先ほどの本と同じタイトルのページだった。そのページには、『狐』というタイトルの本の解除方法が記載されていた。

「本の上でこっくりさんを実行すること」その文字が奏たちの目に飛び込んできた。


「なるほど、これが私たちの次のステップね。」


奏は言った。三人は禁書の棚から元いた場所へ戻り、『狐』という大きな本を中心に座った。本を改めて見ると、確かに儀式の文字が表紙に書かれていた。


「また、こっくりさんをやるのか…」


翔は眉をひそめながら言った。


「そうよ。呪われた本に書かれていた通りにするなら、実行する必要があるわ。」


奏が答える。


「なんだか…視聴覚室でやったこっくりさんが遠い昔のように感じますね…」


優斗は少し感慨にふけりながら言った。

翔は呪われた本をじっと見つめた。


「手順は前回やったやり方で問題なさそうだ。それに…」


彼は本の中に見つけた古びたコインを指差した。


「このコイン、おそらくこの儀式で使うものだろう。」


奏は決意を固めて、


「時間がないわ。考えている暇はない、こっくりさんを再び行うわ。」


と言った。彼女の目は真剣そのもので、決意が感じられた。


「分かった、やりましょう。」


と優斗が応じると、コインを鳥居の上に置いた。続いて、三人は人差し指をコインの上に乗せる。


「それじゃあ、始めましょう。狐の霊よ、私たちの呼びかけに応えてください。」


奏が静かに声を発する。彼女の声が図書室の静寂を破り、周囲の空気がピンと張り詰めるように感じられた。

しばらくの間、静寂が続いた。しかし、次第にコインが微かに震え始めた。翔と優斗は互いに目を見合わせ、緊張感が高まる。


「何か来てる…」


優斗が小声で呟く。

その瞬間、コインが動き出した。最初は小さく、次第に力強く、まるで何かが彼らの指に反応しているかのようだった。


「本の中にいる狐の霊、私たちに教えてください!」


奏が再び声を上げる。

彼女の声は図書室の静けさに響き渡り、周囲の本棚が不気味に揺れるような気がした。

翔は緊張しながらコインを見つめ、


「あなたは呪われた本と、何か関係がありますか?」


と問いかける。すると、コインは無情にも『はい』の方へゆっくりと動き始めた。


「やっぱりそうなのね。…では、何をすべきか教えてください。」


奏の目が輝き、次の言葉を待ち望む。しかし、コインは次第に50音の方へ進み、


「も」「や」「せ」


と止まった。

翔は一瞬驚きの表情を浮かべ、


「もやせ……燃やせという事か?」


と呟く。背筋が寒くなるような気がした。奏もその意味を理解し、


「そうみたいね。おそらく、この呪われた本を燃やせという事なのでしょう。」


と確認する。

コインはそのまま勝手に鳥居へ戻り、静寂が広がる。三人はしばらく無言で見つめ合い、次の動きを考え込んだ。

優斗が不安げに声を上げる。


「コインが勝手に動いた…!本当に、何かを伝えようとしているのかもしれない。」


すると、コインがまた動き始め、


「あ」「と」「ひ」「と」「つ」


と、まるで急かすように文字を並べた。

奏は焦りながらも不思議な感覚に包まれ、


「あと一つ…。全部集めたら…どうなるのかしら…?」


と自問した。コインは再び鳥居へ戻ると、何かの気配を感じたのか、空気が軽くなったように感じられた。

翔は周囲を見渡しながら、


「いなくなった…?」


と疑問を口にする。コインから指を離した三人は、何かを忘れているような不安感に襲われた。

奏が意を決して、


「とりあえず、この呪われた本を燃やさないと…きっと燃やしたらこの本が開くはず…。」


と言い切る。彼女の声には決意が込められていた。

優斗は思い出したように言った。


「そう言えば禁書の棚の方に一斗缶がありました。」


その言葉に奏は目を輝かせ、


「それを使いましょう!」

「こんな時のために、常にカバンの中にライターをしまっておいてよかったわ。」


奏は自信に満ちた表情を浮かべる。

翔は驚愕の表情で、


「おいお前、いつもそんなもの持ち歩いていたのか?」


と問いかける。奏は少し照れくさそうに答える。


「…念の為よ。」


優斗が禁書の棚の方へ急ぎ、一斗缶を持ち帰ると、その中に呪われた本を慎重に入れ、ライターで火を点けた。炎がゆらゆらと揺れながら本を包み込む。

その瞬間、異様な叫び声が本から聞こえてくるような感覚が三人を襲った。叫び声は無形の恐怖を伴い、彼らの心に圧迫感を与えた。奏は一瞬立ち尽くし、翔は後ずさり、優斗は目を見開いて目の前の光景を凝視した。


「これは…本当に大丈夫なのか?」


翔は不安げに声を漏らす。


「今はやるしかないのよ。私たちがこの呪われた本を燃やすことで、何かが変わるはずだから!」


奏は必死に自分を奮い立たせた。

炎の中で、呪われた本は焼け焦げると同時に、黒い煙が立ち昇り、そこから何かが彼らの存在に対して訴えかけているようだった。数分が経過し、呪われた本は黒焦げになり、その形すらも保っていなかった。燃え尽きた残骸からは煙が立ち上り、空気には焦げた紙の嫌な匂いが漂っていた。

そのとき、突然「ガチャ」という音が図書室の静寂を破った。

翔は警戒しながら、恐る恐る手を伸ばし、狐の本の表紙をめくった。ページがめくれた瞬間、目の前に現れたのは、くぼみだった。その中を確認すると狐の尻尾が入っていた。

奏は狐の尻尾をしっかりと握りしめながら、興奮と緊張が入り混じった表情で言った。


「やった、これで狐の尻尾を手に入れたわ。」


翔はその様子を見つめながら考えを巡らせた。


「これで三つ目だ。さっきの狐が言っていたことが本当なら、あと一つ……」


優斗がその言葉を受けて頷く。


「残るのは一つ…それも大事な部分ですね。」


奏は真剣な表情で呟いた。


「頭部よ。」


翔はその言葉に少し驚きつつも、深刻さを増した。


「頭か…一番大事な部分だな。でも、どこにあると思う?手掛かりはもうない。」


奏は廊下の薄暗い隅を見つめながら考え込む。

「そうね…。どうしましょうか。」


優斗が提案する。


「一つずつ教室を調べて回りますか?」


翔は首を振って反論する。


「そんなこと出来るわけないだろう。学校中を探し回るのは無理だ。」


奏は決断を下し、深呼吸した。


「とりあえず、図書室にはもう用はないわね。出ましょう。」


三人は図書室を後にし、廊下に出ると、奏は急に立ち止まり、周囲を見回した。


「廊下の風が…変わった気がする。」


「…確かに、先ほどより生暖かいぞ…」


翔もその異変に気づき、思わず背筋が寒くなる。

奏は少し警戒しながら口を開いた。


「出所を確かめましょう。…私が察するに……」

「視聴覚室。」


彼女の声には決意が込められていた。

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