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執筆者の写真Amagirasu

[#3]白狐のこっくりさん

更新日:11月14日

白狐の怨霊

亜里沙は震える手でスマホを見せながら、当時のことを淡々と話し始めた。彼女の声には緊張と恐れが混じり、視線はテーブルの上をさまよっている。


「先生や警察にも…誰にもお話していないことなんです。でも…二人が行方不明になったあの日、私、実は二人と一緒にいたんです…。」


その言葉に、奏の眉がわずかに動く。


奏「一緒に…いたの?」


亜里沙は頷き、スマホの画面を二人に向けた。


「はい…それに、行方不明になる前日の夜中、こんなメッセージが突然届いたんです。匿名の誰かから。」


スマホの画面には簡素なメッセージが映っていた。


『旧校舎の視聴覚室でこっくりさんをすると、好きな相手と必ず結ばれる』


奏は眉をひそめ、その文章を一瞥すると、深いため息をついた。


「なんなのこれ…ずいぶん稚拙な文章ね。」


オカルト研究部のリーダーとして、奏はこの手のメッセージに数多く触れてきたが、目の前のものには特に信憑性を感じなかった。作り物めいた安っぽさが滲んでいる。


「私も、最初は全然信じてなかったんです。ただの悪ふざけだって思ってました。私、都市伝説とかそういうのに興味ないですし…。でも、次の日に詩音と佳奈に見せたら、二人とも…特に詩音の方が驚くほど乗り気になってしまって…。」


奏は静かに紅茶をすすりながら亜里沙の話を聞いていた。雨音が窓を打ち続け、外の世界がさらに遠く感じられる。

亜里沙の回想が始まる。


***

詩音がスマホのメッセージを見て、にやりと笑った。


「へぇ~、面白いね!こっくりさんなんて何年ぶりだろう?小学生の時にちょっと流行ったっけ、それ以来全然やってないなぁ~!」


佳奈は眉をひそめ、信じられないような顔で亜里沙に問いかけた。


「亜里沙、まさかこれ信じてるわけじゃないでしょうね?」


亜里沙は急いで首を振る。


「ま、まさか!そんなわけないじゃない…。」


しかし、詩音は楽しそうに亜里沙をからかい始めた。


「ほんとはちょっと気になってるんでしょ?こっくりさんって、やっぱり不思議だもんね~。」


詩音はからかうような目つきで亜里沙を見つめ、その笑みがいつも通り無邪気であったが、どこか妙な説得力があった。


「そ、そんなことないよ…。詩音こそ…すごく興味ありそうに見えるけど…。」


詩音は首を傾げ、軽く肩をすくめた。


「まぁ、正直に言うとね。こっくりさんはちょっと面白いって思ってる。小学生の時、5人でやったことがあるんだけど…」


佳奈は驚いた表情で詩音を見た。


「やったことあるのかよ!?なんだそのサプライズ…。」


詩音はあっけらかんと答えた。


「うん、だけど、何も起きなかったよ。10円玉すら動かなかった!」


亜里沙は少しほっとした表情を浮かべたが、その直後に佳奈が詩音を鋭くたしなめた。


「あんたって、いつもそう軽いノリで色々やっちゃうんだよね。まったく…。」


詩音はその言葉を軽く受け流しながら、にっこりと笑った。


「物は試しってやつさ。興味が湧いたらやってみないと、後悔しちゃうよ?」


その言葉に、亜里沙はふと考え込むように視線を落とした。


「後悔…か…。」


詩音はそのまま勢いよく提案を続けた。


「ねぇ、どうせなら、そのメッセージも何かの縁だしさ、やってみない?ただの遊びだとしても、それくらいならいいんじゃない?」


佳奈は渋い顔をしたが、詩音の勢いに負け、最終的に納得してしまった。三人は、こっくりさんをやってみることに決めたのだった。


***

現実に戻り、亜里沙はため息をつきながら、ゆっくりと紅茶に手を伸ばした。


「それで、私たちは旧校舎に行くことにしたんです…。あの夜が、全ての始まりでした。」


奏と翔は互いに視線を交わし、亜里沙の言葉を慎重に聞き取っていた。


「確か…時刻は20:00頃だったと思います……私たちは、夜の旧校舎に入って…こっくりさんをやるための道具を持って5階の視聴覚室に向かいました。」


亜里沙の声は少し震えている。扉を開けると、視聴覚室の中には不気味な雰囲気が漂っていた。薄暗い室内は、長い間人が入らなかったことを示すように、黴臭さとホコリが満ちている。彼女は思わず背筋を伸ばし、その異様な空間に踏み込んだ。


「視聴覚室は廊下や他の場所とは違って、なんだか特別な雰囲気がありました。…旧校舎とはいえ、図書室や音楽室はまだ使われているのに、視聴覚室だけはほとんど誰も来ないから、ここは特に怖い感じがしました。」


***

亜里沙は心の中で、何か恐ろしいことが待っているのではないかと不安を抱えつつ、周囲を見渡した。


「ねぇ…本当に、ここでやるの?」


詩音は元気に答えた。


「もちろん!メッセージにもそう書いてあったし、やるしかないでしょ!」


佳奈は周囲を見回し、顔をしかめた。


「なんか、すごく埃っぽいし、空気も悪いね。」


詩音は気楽に笑いながら言った。


「どうせ何も起きないし、さっさとやって帰ろうよ!」


そう言いながら、視聴覚室の真ん中の机に向かって歩き出す。

亜里沙と佳奈は、互いの顔を見つめ合い、少し不安に思いながら詩音の元へと足を進めた。彼女たちの足音が薄暗い室内に響き、緊張感が高まる。


「さて…亜里沙、こっくりさんに必要なもの、ちゃんと持ってきた?」


「え?あ、うん…持ってきたよ。」


そう言いながら、亜里沙はカバンから文字が書かれた用紙と10円玉を取り出した。用紙を広げ、鳥居が描かれた位置に10円玉を置く。彼女の手は、少し震えていた。


「じゃあ、みんなこの10円玉に指を置いて。」


亜里沙と佳奈は再び顔を見合わせ、佳奈は指を出して10円玉に置いたが、亜里沙はなかなか指を出さない。


「亜里沙、どうしたの?」


亜里沙は目を逸らしながら言った。


「やっぱり…私、パスしてもいいかな?なんかすごく怖い……。」


詩音は少し驚いた様子で言った。


「えー、亜里沙がやりたいって言ったんじゃん!今やらないと意味ないよ!」


亜里沙は戸惑いを隠せず、うつむいた。

「で、でも…。」


詩音は妥協案を提案する。

「わかった、わかった。じゃあ、手は置かなくていいから、そこでじっとしてて?」


亜里沙はほっとしたように頷いた。


「わ、分かった……。」


心拍数が上がっていく。亜里沙の中に緊張が広がる。詩音は気合いを入れ直して言った。


「じゃあ、始めるよ?せーの。」


詩音と佳奈は声を揃えて、


「こっくりさん、こっくりさん」


と呼びかける。そして、詩音が続けた。


「どうぞ、おいでください。」


彼女たちの声が室内に響き渡り、周囲の静けさが一層不気味に感じられる。亜里沙はその瞬間を見守りながら、恐怖と期待が入り混じった気持ちを抱えていた。

静寂が支配する視聴覚室。時間が経つにつれて、緊張が高まる中、何も起こらない。


「何も起きない。」


不安げに佳奈が口を開く。


「ちゃんと本気にならないと!」


と、詩音は少し焦りを見せる。


「お前が言える立場かよ!」


と返すと、詩音は軽く頭を掻いた。


「はいはい、ごめんごめん。次はちゃんと言うから。」


亜里沙は震えながら、


「詩音…怖いよ…。」


と小声で呟いた。


「大丈夫。亜里沙は何も心配しなくていいから!それじゃあ、気を取り直してもう一度やってみよう。」


詩音は佳奈と目を合わせ、タイミングを取る。


「こっくりさん、こっくりさん、どうぞおいでください。」


詩音と佳奈が声を揃える。

すると、しばらくの沈黙の後、10円玉が小刻みに動き始めた。

亜里沙は驚いて目を見開く。

「これ、本当に動いてる…?」


「成功か!?本当に動いたの!?」


「マジで!?えっと、次は…おいでになられましたら、『はい』へお進みください。」


10円玉が微かに震えながら、ゆっくりと「はい」と書かれた方向へ進んでいく。そして、その位置に達すると、ピタッと止まった。

詩音は緊張しながらも、


「ありがとうございます。どうぞお戻りください。」


と声をかける。

すると、10円玉は鳥居が描かれた場所へと、ゆっくりと戻っていく。

それを一部始終見ていた亜里沙は、恐怖感が増していく。


「ねぇ…怖いよ……やめよう?」


と再び呟いた。

詩音は


「しっ!静かに!せっかく来てくれたんだから、何か質問しないと。」


と亜里沙を制止した。

しばらくして、詩音が意を決したように質問をする。


「こっくりさん、こっくりさん。私を好きな人はいますか?」


すると、10円玉は「はい」の方へ進んだ。

詩音は歓喜の声を上げる。


「やった!誰だろう?もしかしてあの人かな…?ありがとうございます、どうぞお戻りください!」


10円玉は再び鳥居の元へ戻る。

詩音は佳奈を見て、


「佳奈も何か質問してみて!」


と促した。


「そうだな…」


と、心を落ち着けようとする。


「こっくりさん、こっくりさん。次の期末テストで私は学年1位になることが出来ますか?」


詩音は、思わず声をあげる。


「佳奈の質問、それかよ。」


佳奈は詩音に目を向け、眉をひそめる。


「静かに!」


と、少し苛立ちを交えた声で返した。

視聴覚室の空気が一層重くなり、3人は再び10円玉の動きを見守る。心拍数が高まり、何かが起こるのを期待しているが、その瞬間の静けさがさらに不安を募らせる。

暫くすると、10円玉はゆっくりと「いいえ」の方へ向かい、そのまま止まった。


「ちぇっ。なれないのかよ……どうぞお戻りください。」


と佳奈は少し不満げに呟く。彼女の目には落胆の色が浮かんでいたが、詩音の興奮がその場の雰囲気を変える。詩音は再び質問をすることにした。驚きと先ほどの成功による高揚感が混じり合って、目が輝いている。


「こっくりさん、こっくりさん。私は何歳で結婚することができますか?」


詩音の声が響くと、10円玉はゆっくりと動き出した。最初は数字が描かれた場所へ向かっていたが、急にその進行方向を変え、思いもよらない方向へと進んでいく。


「えっ、何?どこに行くの?」


詩音は戸惑いの声をあげる。亜里沙もその様子に驚き、目を大きく見開いて見守っていた。

10円玉は、次第に文字の方へと向かい、佳奈と亜里沙の間に緊張が漂う。


「い」「ま」


10円玉が示した文字はこの二つだった。


「いま?今から結婚するってこと?」


詩音は興奮気味に問いかけたが、その瞬間、視聴覚室全体の雰囲気が一変し、重苦しい空気に包まれる。懐中電灯の照明がわずかに揺れ、壁に映る影が不気味に変わった。


「ね、ねぇ…さっきよりも何だか…空気が重い気がする……。」


亜里沙は震えながら呟き、周囲を見回した。視聴覚室の窓から漏れる月明かりも、どこか冷たく感じられる。


「そうだな…なんだか嫌な予感がしてきた…。」


佳奈も同様に感じているようで、背筋が凍る思いを抱えていた。体感温度が一気に下がり、冷や汗が額を伝う。静寂の中に潜む緊張感が、彼女たちの心を締め付けていく。

それでも詩音は質問をやめない。


「こっくりさん、こっくりさん。相手の名前は何ですか?」


その言葉を発した瞬間、10円玉は先ほどよりも激しく動き始め、


「き」「つ」「ね」


と続けた。

詩音は恐怖を感じながらも興味をそそられ、


「狐って…どういうこと!?なんでそんな名前が出てくるの?」


と声を震わせた。

「詩音!…もうやめよう!帰ってもらおう?」

亜里沙の訴えで、詩音にも恐怖感が襲ってくる。


「そ、そうね…こっくりさん、こっくりさん…あ、ありがとうございます。どうぞお帰りください……。」


すると、10円玉はさらに乱暴に「いいえ」の方向に向かって動き出した。


「いいえって…どうなってるんだよ!?」


佳奈は驚き、心臓がバクバクと音を立てる。視聴覚室の壁が迫ってくるように感じ、呼吸が乱れていく。


「わからないよ!ヤバい……。」


詩音の声にも不安が混じる。彼女の指先が冷たくなり、緊張が高まる中、亜里沙は心拍数がどんどん加速し、過呼吸寸前まで達していた。

その時、質問をしていないにもかかわらず、突然10円玉が激しく動き出す。


「に」「が」「さ」「な」「い」


「なんだよ!」


詩音は恐怖で顔を歪め、10円玉から指を離し、用紙をくしゃくしゃに丸めた。


「強制的に終わらせる!」


ふと詩音は、丸めた用紙に目を向けた。その瞬間、用紙の中から血が滲み出てくるのを見た。赤い液体がゆっくりとにじみ出て、床を染めていく。


「え!?」


驚愕と恐怖で動けなくなる中、丸めた用紙から人の手の形をしたものがいきなり飛び出してきた。血の滴るその手は、まるで彼女たちを引き込もうとしているかのように伸びてきた。

それを目にした亜里沙は気を失い、詩音と佳奈は悲鳴を上げた。部屋の空気が重苦しく、耳鳴りが彼女たちの頭を締め付ける。

暫くして、亜里沙は薄っすらと目を開けた。周囲の光景がぼんやりと見え、視聴覚室の中に一人取り残された彼女は、


「詩音…佳奈?」


と呼びかけた。しかし、部屋には彼女一人だけだった。心の中に広がる恐怖感が、冷たい手で彼女を掴んでいた。

床に視線を向けると、くしゃくしゃになった用紙がある。しかし、先ほどの血の跡は一切残っていなかった。瞬間的に記憶が蘇り、亜里沙の心を恐怖が襲った。彼女は息を呑み、何かに追われるように感じた。

その場を一目散で逃げ出し、旧校舎を後にした。

***


次の日も、彼女は二人の姿が教室に現れることを密かに期待していた。しかし、いつまで経っても彼女たちは戻らず、亜里沙は胸が締め付けられる思いだった。

視聴覚準備室で亜里沙は緊張した面持ちで話を始めた。


「…あれから二人は…次の日も学校に来ることなく、姿を消しました…。」


亜里沙は俯き、声がかすれている。


「それが今回の事件と…きっと関係しているはずです……!」


彼女の目には涙がにじんでいた。あの不気味なメッセージを二人に見せたことを、亜里沙は心底後悔していた。

奏は静かに頷きながら、


「なるほどね。旧校舎でこっくりさんをして、神隠しに遭ってしまったのね」


と状況を頭の中で整理していく。

しかし、隣にいた翔が冷たく口を開く。


「自業自得だな。」


「ちょっと!」


奏は睨むように翔を見た。


「言い過ぎよ。たとえそうだったとしても、友達が二人もいなくなっちゃってるんだから、少しは気を使ってあげて。」


翔は少し気まずそうに黙り込んだが、亜里沙は視線を落としたまま続けた。


「自業自得…確かにそうかもしれません…あんな誰からかのメッセージなんて、早く消しておけばよかったんです…。」


視聴覚準備室に沈黙が漂う。窓からのわずかな光が部屋に差し込み、重い雰囲気を和らげるどころか、不穏さを際立たせるようだった。

奏が口を開き、ぽつりと呟くように言った。


「こっくりさん…神隠し…行方不明…。」


翔が少しだけ興味を引かれたように顔を上げる。


「どうしたんだ?」


奏は少し迷ったように視線を動かしながら、静かに言葉を繋ぐ。


「行方が分からなくなったのは数日前…なら、まだ二人を救い出せるかもしれないわ。」


その決意を示すように立ち上がった奏は、棚に並ぶ都市伝説にまつわる本を探し始め、すぐに一冊を取り出してページをめくり始めた。そして、目当てのページにたどり着くと指差し、ふたりに見せた。


「ほら、ここに書いてあるでしょ?神隠しに遭ってしまっても、精神力が強ければ『生霊』になるまでの猶予があると。」


翔は眉をひそめ、半信半疑の様子で奏を見た。


「そんな根も葉もない事を信じろというのか?」


奏は真剣な眼差しで応える。


「この本の著者は、オカルトで有名な池田寛人さん。彼は数々の都市伝説について研究を行っていて、自ら体験もしているそうなの。その彼が記している内容なのよ。試す価値はあるわ。」


言葉に力がこもり、視聴覚準備室には一瞬、張り詰めた空気が流れた。翔もその表情から少し疑念が消え、真剣な面持ちで奏の話に耳を傾けていた。

亜里沙も息を詰め、二人のやり取りを見守りながら、心の中で祈るような気持ちを抱いていた。亜里沙は震える声で懇願した。


「どうかお願いです…二人を…助けてください…」


その瞬間、堪えきれなくなった涙が亜里沙の頬を伝って零れ落ちた。見ている奏も胸が痛んだが、すぐに優しい声で返事をした。


「わかったわ。私たちに任せて」


そう言いながら、奏はふと時計に視線を移した。時刻はすでに18:00を過ぎ、視聴覚準備室の窓から見える空は、茜色から濃紺へと移り変わろうとしていた。

奏は少し神妙な顔をしながら続けた。


「もうすぐ下校時間ね。御影さん、今日はもう帰ったほうがいいわ。暗くなると霊も活発になるの。…今のあなたの精神状態では、逆に引き寄せられかねないもの」


亜里沙は小さくうなずき、椅子からゆっくり立ち上がった。そして、背筋を伸ばし、やや消え入りそうな声で返事をする。


「…はい」


彼女が扉の方へ歩き出したところで、奏が声をかけた。


「何かあったらすぐに連絡するから、連絡先を教えてもらえるかしら?」


奏はスカートのポケットからスマホを取り出し、画面をタップして準備した。亜里沙もスマホの電源を入れ、QRコードを表示させて奏に見せる。奏が素早くコードを読み取り、連絡先が無事に共有された。

去り際、亜里沙は二人に振り返って頭を下げた。


「あの…今日は本当にありがとうございました。私も、ただ落ち込んでいるだけじゃなくて…何かできることがあれば、協力させてください…!」


そう言って、深々と礼をし、視聴覚準備室を後にする。ドアが静かに閉まると、辺りは静まり返り、部屋には奏と翔の二人だけが残った。

しばらく沈黙が続き、薄暗くなりかけた部屋の中、二人は微かに漂う緊張感に包まれていた。翔がため息をつき、壁に寄りかかりながら奏に話しかけた。


「本当に大丈夫か?どうなるかわかったもんじゃないぞ?」


奏は、強い決意のこもった眼差しで翔を見返した。


「怖いと思うなら無理に付き合わせないわ。でも、私は信じてる。あの二人がどこかに閉じ込められているって…まだ手遅れじゃない気がするの。」


翔は冷ややかな目で奏を見つめながら、鼻で笑った。

「怖いって?まさか」


「ええ、あなたの顔を見ればわかるわ」


奏は意地悪く微笑んでみせる。


「今回の件はね、ただの噂じゃなくて、リアルに起きた事件よ。だからいつも以上に怖いんじゃない?」


冗談めかして奏が問いかけると、翔は少しムッとしたように応じた。


「ふざけるな。俺はオカルト研究部の副部長だぞ。そんなことじゃ怖気づかないさ」


「そう」


奏はわずかに嬉しそうに頷き、スッと真剣な表情に戻る。


「なら、早速だけれど、準備しましょう。…今夜、旧校舎でこっくりさんをして真相を確かめるわ。」


翔が少し眉をひそめた。


「今夜こっくりさんをやるつもりなのか?」


「ええ。だって、こっくりさんで神隠しに遭ったのなら、こっくりさんに直接聞くしかないじゃない」


「単純だな。神隠しにあったなら、神隠しに関する情報を調べればいいだろ」


翔は淡々と反論する。

しかし奏は首を横に振り、冷静に言葉を続けた。


「それだけじゃダメよ。今回の鍵はこっくりさんだし、それに旧校舎が関係しているなら、なおさら直接こっくりさんに聞かなきゃ解けない謎があると思うの」


一瞬、翔は反論しようとしたが、黙り込んでしまった。

その間に、奏は早速机の上で紙を広げ、こっくりさんの儀式用に丁寧に文字を書き込み始める。彼女の真剣な手つきに翔は黙ってため息をつき、半ばあきれたように紅茶のカップを手に取った。


「…どうなっても知らないぞ」


静かにぼやくと、冷めた紅茶を一口含み、渋い顔をしてカップを置いた。




白狐のこっくりさん


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