[#11] 白狐のこっくりさん
- Amagirasu
- 2024年11月11日
- 読了時間: 4分
更新日:2024年11月14日

翌日、学校内では行方不明だった二人の生徒の話で持ちきりだった。廊下を行き交う生徒たちがささやき合い、不安と好奇心の入り混じった視線を交わしていた。
詩音と佳奈は警察での事情聴取後、大事を取って病院に入院することとなった。心身の傷を癒やすためには時間が必要だろう。
朝、奏はいつものように視聴覚準備室にいた。カーテンを通して差し込む柔らかな光が部屋を包み、外の雲一つない青空が、まるで一つの真相が晴れたことを示すかのように輝いていた。椅子に腰掛けた奏は、窓の外に見える旧校舎を静かに見つめていた。
そのとき、扉が軽く音を立てて開いた。視線を扉へ向けると、そこには翔が立っていた。無言のまま視線が交錯する。
「おはよう。」
奏が挨拶をすると、翔は軽く頷き返した。
「昨日の一件で、お前はもうここに来ないと思ってたんだが。」
翔の口調にはわずかな驚きと安心が交じっていた。
「ふふ、そんなことを考えていたのね。でもお生憎様、私はここにいるわ。」
奏は微笑んで答える。
「だな。」
翔も小さな笑みを浮かべた。視聴覚準備室に柔らかな空気が流れる。
「旧校舎のこっくりさんの真相はこれで解決ってことでいいよな?」
翔が問いかけた。
「そうね。行方不明の生徒も無事に救い出せたし…」
奏はふと立ち上がり、ゆっくりと教室を出た。
「どこへ行くんだ?」
翔は気になり、奏の後を追った。
二人は旧校舎の裏へと向かって歩いた。早朝の冷たい空気が頬を撫で、わずかな鳥のさえずりが遠くから聞こえた。その先に、優斗の姿があった。彼は何かをじっと見つめているようだった。
「あら、木更津君。こんなところで偶然ね。」
奏が声をかけると、優斗は振り返って驚いたように笑った。
「先輩方じゃないですか!いやぁ…昨日のことがどうにも頭から離れなくて……」
優斗の手には、小さな花束が握られていた。白い小花が束ねられ、朝の光に優しく輝いていた。
「私もよ。ところで、それは…?」
奏が問いかけた。
「お供えの花です。昨日の狐のことを思い出して、何かできることはないかと考えて、近くの花屋で買ってきたんです。」
優斗はそう言うと、狐がかつて歩き回っていたであろう場所に花束を静かに供えた。
「その花束…私たちからもお願いするわ。」
奏は静かな声で続けた。
「全然いいですよ!」
優斗が穏やかに笑い、3人はその場で静かに手を合わせた。風がそっと吹き抜け、木々の葉がささやき合うように揺れた。沈黙の中に、彼らの心に宿った感謝と祈りが、そよ風に乗って消えていった。奏は優斗に視線を移しながら、ふと口を開いた。
「そう言えば、今回の一件は記事にするのかしら?」
優斗は少し考えてから、静かに頭を振った。
「いや、今回の件は心にとどめておくだけにします。記事にすれば注目を集めるかもしれませんが…あまり騒ぎになっても二人に迷惑をかけちゃいますし。」
その言葉に、奏は安堵の表情を浮かべて頷いた。
「そう。」
一瞬の沈黙が流れた後、優斗が目を細めて懐かしそうに呟いた。
「それにしてもあの狐、白くてとても綺麗でしたね。」
翔はその言葉に軽く頷いて応じた。
「確かに、あんな神秘的な姿は二度と見られないかもな。」
奏は遠くを見つめながら微笑んだ。
「昔はこの辺りも森林地帯だったらしいわね。今じゃとても珍しいけれど、私も一度見てみたいものだわ。」
そして、目を輝かせて優斗を見た。
「…あなた、オカルト研究部員に昇格よ。」
優斗は目を丸くして、すぐに苦笑いを浮かべた。
「いやいや、オカルト研究部員はさすがに無理ですよ。僕にはちょっと荷が重いです。」
そんな優斗を見て、翔はからかうように肩を叩いた。
「まぁ、そう言うなよ。昨日の活躍で十分資格はある。」
優斗は半ば冗談を言われていると分かりつつも、少し照れくさそうに笑う。
「そう言えば、先輩!こんな話もあるんですけど、聞いてみます?」
その言葉に奏と翔も興味を引かれ、軽く顔を見合わせた。新しい話題に盛り上がる3人の声が、早朝の風に乗って旧校舎裏に響いた。
その声はどこか明るく、今までの暗い影を払うかのように清々しかった。そして、彼らの談笑は優しい風に溶け込み、いつまでも続くかのように思われた。
こうして、長い夜の幕が降り、物語は穏やかな朝の光の中で幕を閉じた。
白狐のこっくりさん